EPISODE 06 in 2003年11月

おばあさんが残してくれたのは、
家と土地、そして人を結ぶ思い。

長く暮らした家や土地には、知らぬ間に愛着が湧くもの。
そういった場所から離れるのには、人それぞれ、さまざまな事情があります。
しかし、見た目やカタチが変わったとしても、そこにある思い出までは消えるわけではありません。

2003 年の秋。丸三にひとりのおばあさんが訪れます。

「夫が亡くなり、大きな家に私と犬だけで暮らしています。敷地も広く、管理ができないので、親族の居るところに引っ越すことにしました」

話を聞いてみると、旦那さまとの出会いは結婚相談所だったといいます。
ただ“パートナーを探す者同士”というわけではありません。
おばあさんがカウンセラー、旦那さまが相談者でした。

当時を懐かしむように、おばあさんは話をつづけます。

「相談を受けているうちに、意気投合しましてね。恥ずかしながら『じゃあ、私はどうですか?』って言ったんですよ(笑)」

それから何十年も、二人と愛犬一匹で幸せに暮らしてきたと言います。
そんな思い出の家から引っ越しをすることが、少し寂しいご様子でした。

「大切な場所なんですね……。何か良い活用ができないか、考えてみます」

お二人が所有していた土地は『市街化調整区域』。
つまり、新たに家を建てることができない土地も、一部含まれていたのです。
そこで、地元・三ツ境で協働する工務店に相談をすることにしました。

「一部は家が建てられない土地なので、分割して販売することも考えているのですが……」

「いや、和田さん、市街化調整区域も含めて、弊社に売っていただけませんか? 分譲地にする部分と併せて駐車場などで活用できると思います」

その後、ご夫婦が暮らしていた土地は、整備され、数軒の家と駐車場などに姿を変えていきました。

いよいよ建売住宅の販売が開始された時期に、おばあさんから1本の電話が入ります。

「和田さん、実は新しい土地に私も、犬も馴染めなくて……。どうにか前の土地に戻る方法はありませんか?」

引っ越しをされてから、1年弱。
土地に馴染めず、短期間でまた別の場所に移り住むことは珍しい話ではありません。
しかし、一度手放した土地、さらにすでに当時住んでいた家は当然解体され、なくなってしまった状態です。

「でもおばあさん、もう前の家はなくなっていますよ……」

思い出がある土地だけに、整備された姿にショックを受けると思っての言葉でした。
しかし、おばあさんは、とても前向きにその事実を受け入れていたのです。

「たくさん家が建ったみたいね(笑)。私は、一番角の家を買おうと思っているわ」

「そうおっしゃるなら、確認してみますね」

自身が売った土地が分譲地になり、その後、建売の一軒家を購入するというのは、非常に珍しいこと。
工務店の担当者も驚いた様子でした。

「長年やっているけど、そんなお客様ははじめてですよ(笑) まだ角のお家は空いていますので、ぜひご覧になってみてください」

約1年のブランクを経て、おばあさんと愛犬は、無事に住み慣れた場所に戻ることができたのです。
それからは、大きなワンちゃんと散歩をしている姿をよく目にするようになりました。

それから数年後、今度はおばあさんの弟から連絡が入ったのです。

「先日、姉が亡くなりました。生前は丸三さんに助けていただいたおかげで、幸せな暮らしが出来ていたと思います。ありがとうございました」

おばあさんの家に住む人はいなくなり、残念ながら売却することに。
そして、その販売をもう一度、丸三がお手伝いすることとなったのです。
そんなとき、真っ先に声をかけてくれたのが、当時、土地を購入し、分譲してくれた工務店でした。

「自分たちで建てて売った家です。この家のことはよく分かっています。よろしければ、ぜひ当社に売ってください」

同じ土地を3回お取引し、2度も買い戻す。おそらく不動産人生で、最初で最後の貴重な経験になりました。

人と家。人と土地。人と思い出。

お客様の人生にとって、重要な決断である不動産売買を手がけるうえで、もっとも大切なことを学ばせてもらった、運命的なご縁でした。